NIPPON PROUD にっぽんプラウド | 日本のモダンデザインインテリア 偏愛カタログ

• 文　：NIPPONPROUD　森口　潔
• 協力：設計工房MandM

大は小を兼ねる。逆もまた真なり

スモールやミニと言えば、オリジナルの製品の機能を簡素化したり、サイズダウンすることで取り回しを良くしたり、プライスダウンをするためというのが一般的だが、このたためる椅子スモールは、それらとは若干ニュアンスが違うようだ。　

たためる椅子スモールは、たためる椅子の開発者グループ（吉村　順三氏、中村　好文氏、丸谷　芳正氏）の一人、丸谷氏が199４年にデザインしたものだ。 　八ヶ岳音楽堂に納められていたたためる椅子を大変気に入られた鎌倉女子大学の理事長が、『是非、我が大学の研修施設にたためる椅子を入れたい』と希望されたのが、始まりだと聞く。建設中の鎌倉女子大の二階堂学舎に300脚の椅子をとの要望が、建築を担う竹中工務店の設計担当から届いた。　但し、そこには条件が付いて、値段を安くして、間口寸法も50cm（オリジナルは57.5cm）にしてもらいたいとのことだった。

当初、丸谷氏は、ちょっと厳しい注文で無理かなと思ったが、図面に落とし込んでみると意外にも思いのほかうまくまとまったという。　オリジナルのたためる椅子では販売開始から長い間、頻繁に修正を加えていたが、こうして誕生したたためる椅子スモールは、この時の設計図面を今日まで一度も手を加えてないという。　オリジナルで苦労していた組立時の丁番の精度出しもこの椅子ではボルトを併用するアイディアで解決することができ、オリジナルもこの方式を採用したという。　そんな歓迎すべきことが重なり、確固たる遺伝子構造を受け継いで出来上がったのがこの椅子なのだ。

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翌1995年には鎌倉女子大二階堂学舎に無事300脚納入され、さらに、（社）日本インテリアデザイナー協会から「スペース協力賞」を頂くという名誉も得ることになる。　　広い講堂では、ギシギシと音のするパイプ椅子しか記憶のない筆者にとっては、とてもうらやましいし、学び舎の環境の素晴らしさには大いに賛同するところだ。　この椅子のその後の納入先は、講堂や塾など教育現場、研修機関などが多いという。　　私には、この木製の折りたたみイスには、学ぼうとしている人たちを優しく包みながら応援するような存在に見えてくる。　同時に、この椅子を選ばれる受け入れ側の優しい眼差しも感じる。　　

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もう一つの機能、作業姿勢の取れる椅子

たためる椅子スモールは、オリジナルよりも座面が2.5cm高く※注１(オリジナルはSH36cm、スモールはSH38.5ｃｍ）、サイズもひと回り小さくなっている。 背もたれの傾斜もオリジナルよりもやや浅くなっていて、オリジナルは休息姿勢が取れる椅子であるのに対してスモールは、作業姿勢が取れる椅子となった。　その結果、スモールは食事も出来て、ちょっとリラックスも感じられるという二刀流の才を持つ存在になった。　　最近あまり聞かなくなったが、食後もゆったりとくつろげる、いわゆるリビングダイニング用のチェアと言えるかもしれない。　そして言うまでもない最大の特徴である「折りたためる」という機能は、ダイニングやベランダ、和室や寝室に移動する事を容易にさせてくれる。　　重さは約5kg、折りたたむと奥行10.3cmになり、片手で取り扱える。 　いつもの椅子の場所を移動させ、腰を下ろしてみると、面白いもので見える景色が変わって室内であっても気分が随分と変わるものである。

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筆者もご多分に漏れず、加齢により時間の経過を早く感じており、一年などあっという間である。　これは時間学で言うと新鮮な体験や、印象に残ることが高齢になるほど少なくなっていくことが大きな要因の一つらしい。　ちょっと日常のルーティンから逸する行為は、五感から入ってくる情報の処理や刺激で脳が活性化されるという。　　些細なことかもしれないが、椅子を移動して活動場所に変化をつけることも時間の流れを記憶に刻むのにきっと効果があるに違いない。　その時も上質な座り心地を提供してくれるこの椅子の存在はありがたい。　

※注１．シートハイ38.5㎝は、一般的なダイニングチェアと比べて低いので、合わせるテーブルの高さとの検討が必要となります。