loading

NIPPON PROUD にっぽんプラウド | 日本のモダンデザインインテリア 偏愛カタログ

映画「クロスロード」と伝統文化に関するゆるーい考察

映画「クロスロード」と伝統文化に関するゆるーい考察

2021.03.15

文 : NIPPON PROUD にっぽんプラウド 森口 潔

40歳以上のロックやブルース好き、というよりギターマニアの方なら観たことがあるかもしれない映画「クロスロード」。  個人的には「ウォリアーズ」や「48時間」、「ロングライダース」の監督で私の愛すべき「ストリート・オブ・ファイア」を世に送り出したウォルター・ヒル監督の作品という理由で飛びついた記憶がある。 「ストリート・オブ・ファイア」がロックンロールの寓話ならこちらは差し詰め「ブルースの寓話」というべきか。 更に映画を魅力的にしているのは音楽担当が私の大好きなライ・クーダーである事だ。

1986年にリリースされた映画「クロスロード」。

さて、あらすじや詳しい内容に関しては他のサイトの映画評論などをご覧いただくとして、今回私が主張したい事で引用したいのは次のシーンだ。 主人公のユジーンは若くして将来を嘱望されたクラシックギターのプレイヤーで今はジュリアード音楽院に通う学生だ。  試験会場らしき場所でモーツアルトの「トルコ行進曲」を流暢に引く彼。 教師もその演奏に聞き惚れるほどの愉悦に浸っていたところにエンディングをなんとブルースのスケールで締めくくる。  そう彼はロバート・ジョンソン(デルタ・ブルースの代表的なミュージシャン)をも敬愛するガチガチのブルースヲタクなのだ。  教師は苦々しく「途中まではよかったが、最後がいかん。 モーツアルトに対しての敬意がない。」別室では、「君に二人のマスターは要らない。 クラシックの道は厳しいものだ、寄り道をせず精進しなさい。」と彼を叱責する。

クラシックギターとブルースギターの対峙と融合。これがラストのギターバトルの伏線に。

教師の指摘はある意味正しい、と私は思う。 忠実に伝統をトレースする事は意義深いことだし、美しい姿だし、容易ではないと思う。しかしその反面、果たしてそれだけが、それを守ることになるのかと。 後世にきちんと魅力的に伝えていく事になるのだろうかと。  その世界におられる方からは激しい異論反論を感じながらも敢えて「それだけではない」と断言したい。  たとえるなら松尾芭蕉の「不易流行」である。永遠に変わらないことも変わり続けることもどちらも大切なのだ。
私がもしそのジュリアード学院の教師だったらこう言いたい 「ユジーン、君の創造力は素晴らしい! 二人のマスターをしっかり師事してこれからも大切に自分の能力を伸ばしなさい。」と。

アコースティックギターとハーモニカがデルタ・ミシシッピーブルースの定番

私が偏愛する伝統工芸品、つまり漆器や鉄瓶、陶器などには一つの共通項がある。 家業が嫌で嫌で一度は家を飛び出して他の職種に就いて戻ってきた人、或いは全く違うフィールドから伝統工芸の世界に入った人、それらの人が創るモノが多いという事だ。      恐れ多いが、アノニマスな日用品に新たな価値を見いだした柳 宗悦氏らの民藝の世界の物もこれに準じる。     つまりこれらは、常に俯瞰したところからの別の視線を持っているからなのだ。

「不易流行」を意識的にか無意識にか分からないが気負いなく実践してゆく彼らは、颯爽としている。 歌舞伎役者がテレビCMで言っているセリフ「守りながら挑み続ける」ことが伝統工芸や伝統芸術にははまさに必要なのだと映画を見ながら「その終わり方カッコイイじゃん!」とツッコミを入れる今日この頃だ。