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NIPPON PROUD にっぽんプラウド | 日本のモダンデザインインテリア 偏愛カタログ

長 大作/坂倉準三建築研究所の小椅子

長 大作/坂倉準三建築研究所の小椅子

2022.01.17

文 :NIPPON PROUD 森口 潔
協力:株式会社天童木工

デザイナーの矜持としてのリ・デザイン

建築家が建物だけではなく家具・インテリアまで空間全体を作り上げることが自然だった時代にジャパニーズモダンの最高峰に位置する椅子がいくつも生まれた。 そのひとつが長 大作/坂倉準三建築研究所の小椅子だ。 話は1940年代まで遡る。そもそもは日本のモダニズム建築を実践した坂倉準三氏が当時親交のあったフランスのジャン・プルーヴェのスタンダードチェア を木製にしてみたいという願望から試作が始まったと聞く。 これらの作業途中には竹籠を座面に用いたタイプも出来上がるが、この時期(1947年)に長 大作氏は坂倉準三建築研究所に入所し、物件に合わせてこの小椅子をリ・デザインすることとなる。 ル・コルビジェの事務所にいたこともある坂倉 準三氏の事務所には家具工房が併設されていたというほど家具に造詣が深かったという。 そんな建築と同じように家具を愛する師を敬いながらも長氏の才能は開花してゆく。 リ・デザインされて出来上がった椅子は、坂倉の想いや哲学は継承しながらも曲線を生かした新しいフォルムのチェアに生まれ変わり、すでにプルーヴェのデザインから逸して日本の名作椅子の名にふさわしいプロダクトになっていた。

その後も使用される場所、用途によってさまざまなチューニングがされる。 今回紹介する天童木工社製のモデルは、1955年に六本木の国際文化会館に納入された黒のビニールレザーのタイプである。 飲食のスペースでの使用なのでクッション性と不特定多数の使用に耐えてメンテナンスも容易なビニールレザーにしたのであろう。 後ろ姿もウットリするほど美しい。

 

長 大作氏の超個人的人物評価

以前私が店長を務めていたインテリアショップ「にっぽんフォルム」(2017年に閉店)という店舗で長さんともお会いする機会が何度かあった。 当時にっぽんフォルムでは、「低座の暮らし」を提案していて、そのコンセプトのアイコン的な商品として取り扱いをさせて頂いていたのが低座イスだった。 氏はいつもお洒落な出で立ちで、特に春夏はストローハットを小粋に被り、Tシャツにジャケットを着こなしていらした。 そんな洒脱なお姿を今でもよく覚えている。
セミナーやワークショップでの発言は超辛口で、デザイナーを志す若者たちを前によく「すぐゴミになるようなデザインはすべきでない」と作品を評価していた。 世に出されるものは十分に準備され、吟味されることが必須であることを力説されていた。 もし今もご存命だったら、相変わらず大量にチープなデザインのもので溢れている世の中をなんと嘆かれたことだろう。
以前に私のブログでも紹介した低座イスと中座イスとこの小椅子の三作品を「柿三兄弟」と愛称で呼ぶ方たちがいる。 何やら「団子三兄弟」みたいだが、共通するのが背・座のかたちで、御所柿を縦に割ったときの美しいカーヴがモチーフになっているからだという。 自然が創り出す有機的なフォームに人知が及ぶべくもなく、これらとジオメトリックな線をどのように造形に落とし込んでゆくかが長氏のデザインのベースだったのではないだろうか。

長 大作氏と親交も厚かった武蔵野美術大学の島崎 信名誉教授は、長氏に随分と前から低座イスにアーム付きのタイプを希望されていた。 高齢化が進むなか、立ち上がりにアームの必要性はますます高まるであろうというからだと思うが、ついぞその要望はカタチにはならなかった。 私の勝手な想像だが、長さんは要望としては聞いていたものの、そのデザイン作業に手を付ける気はなかったのではないだろうか。 完全無欠とも思われるフォルムの低座イスに部品のようにアームを後付けすることは氏の美意識が許さなかったのではと思ってしまう。

      

そして我が家の定位置は

我が家のダイニングテーブルにはすべて違う椅子が合わせられているが、この小椅子もその中の1脚。 ダイニングルームがもっと広ければ、フィギアスケーターがトウステップをしているような後ろ足のフォルムをもっと楽しめるのだが、こればかりはすぐには解決しない。 時折は日本のモダンデザインの黎明期のデザイナーたちの熱い思いに気持ちを馳せながら食卓についている自分がいる。

●商品スペック

材質 :ホワイトビーチ(ナチュラル)/

サイズ:W421D524H806SH440

価格 :¥81,400(税込み) 板座は¥70,400