スタイルY2インターナショナルの仕事術
文 :NIPPON PROUD 森口 潔 協力 :スタイルY2インターナショナル
スタイルY2インターナショナルの横顔
当サイトの「NIPPON PROUD」でも人気の高いアイテムに「雲棚」や「武将面」といった商品がある。 これらのプロダクトを企画したのが、スタイルY2インターナショナル(以下Y2と表記)という姉妹ユニットだ。 姉が企画やコンセプト、営業を担い、妹がデザインやグラフィックを担当する二人三脚で、数々の伝統工芸、地場産業において様々な奮闘をしながら商品開発をしてきた。 そんなスタイルY2インターナショナルのお二人に6月の某日、下北沢にある彼女たちのオフィスに伺いインタビューをさせて頂いた。
Y2は、「日本のオモシロで新たな価値創造を」を目標に有井優雅(ユマ)と有井優香(ユカ)の姉妹で2005年7月に設立された企業で今年創業19年目を迎える。 今年発売10年目を迎えた「雲棚」や文明堂の「おやつカステラ」、新しいコンセプトで作られた仏具の「具足」シリーズなど本当に数多くの商品開発をされてきたお二人だが、ここ数年は、そのような商品ありきの仕事からコンセプトワーク、事業計画などの仕事に参画するようになり、より仕事の幅も拡がってきているようだ。 特に墨田区の「すみだものづくりコラボレーション事業」、山形県の商業・県産品振興課がクライアントの「山から福がおりてくる」のブランド事業などの行政の仕事に加えて、彼女たちが会社設立前から取り組む「日本工芸の輸出」事業についても2020年に経産省の法認定というお墨付きを受け、作ると売るに精通した能力を発揮するステージも多岐にわたって、より高度化しているようだ。 お二人の過去の業績や詳しいプロフィールに関してはぜひ下記WEBページも参照されたい。
※ご本人たちのウェブページはこちらを
昨今の地場産業もしくは伝統工芸ってどうなっているの
衰退産業、あるいは縮小産業といわれて久しい伝統工芸や地場産業。 そんなクライアントが多い彼女たちの仕事術は、音楽プロデューサーあるいはアレンジャーにとても近いと私には思える。(すみません、音楽好きなので例えがすぐそうなってしまいます。) たとえば彼女たちがクライアントからの依頼に応えてアレンジをする。 すでに行っているクライアントの業務を通常の和音(コード)で構成された曲とすると、彼女たちは、このコード進行に 7th(セブンス)や11th(イレブンス)、add9th(アドナインス)などの装飾音を加えたテンションコードを使った編曲をする。 すると今までの楽曲の良さや原型は保たれながらも、新しいニュアンスやおしゃれな感じが新たに加わった作品が出来上がり、元歌までをも輝かせる。 元歌をよく理解して好きでないと、なかなか出来ないし、その匙加減はとても難しいと思う。
そしてそれを彼女たちの言葉を借りると伝統工芸や地場産業には、長年土地と人によって育まれた多面的で奥深い様相があって、それはあたかも肥沃な畑であると。 その畑で今回だけでなく継続的においしく優れた作物を作るための作業をしましょうという事になる。 後々その畑に更に多くの人たちが集まってくるような魅力を作り上げましょうという事だ。
昨今の状況を伺うと、コロナ禍においては、需要も下がり地場産業の世界では分業化された手作業の工賃も上がり、納期も先が見えない、いやそもそもその製品を作れないという事象も多く見られるという。 その地域で分業制でモノづくりをされている所などは本当に深刻だ。 またこれも今日に始まったことではないが、作り手の高齢化、若い人のなり手不足は今も進行中だという。 ただし、そんな状況下でも身の丈にに合った少量生産を家族内で完結し騒々しい外界に左右されない清々しい精神性を持つ作り手も厳然と存在しているという。 また、労働環境を整備して、昔の徒弟制度のような世界を改めて、若い労働力がモノづくりに専念できるようにしている企業体も見られるようになってきているようだ。 私も親方と弟子の世界を全否定はしないが、現代は、やはり星一徹から大谷は生まれないと思う。
確かに、大量生産大量消費の世界にどっぷりと浸かっていることの対極に、日々の暮らしをより楽しく、豊かに、人知の及ばないものには畏敬の念を持ち、そしてくすっと笑いながら過ごしたいという願望があり、それを求める需要があると思う。そしてそれは失ってはいけないものだと思う。 チャットGPTだ、生成AIだ、3Dプリンターだのと科学技術の進歩が私たちの仕事にも大きな影響を与えるが、それらと折り合いながら、その能力の先にあるべきもの、例えば人を惹きつける力だとか人間力だとかを私たちは標榜すべきではないかとの話題でもひとしきり盛り上がった次第。
「姉妹」という関係性がどのように仕事に作用している?
兄弟姉妹というのは、某国皇室の王子兄弟やかつての角界の超人気力士兄弟のように互いに反目している関係の例もあれば、その逆もあってビジネスでの成功例もよく聞く。 彼女たちに聞くと開口一番、妹の優香さんから「すぐ 相談できるところです。」と返ってくる。「小さいころから同じ景色を見てきているから分かり合えることが多いし、早い」とも。 物理的にお二人の距離が近いというのも勿論のこと、それぞれが持つ思考や感情の隔たりもきっと小さいのだろう。 双子にはよくテレパシーが通じ合う的な話も聞くが、何かそれに近いものを感じる。 姉の優雅さんからは妹さんを評して「いい人間なんですよ。笑」という言葉がまず先に口をついて出た。 プロダクトを作り出す場合、そのコンセプトや販売方法、PRなどを姉の優雅さんがある程度考えをまとめた後に優香さんに伝え、それを「デザイン」という作業で妹さんが具現化する。
形になったものに対して何らかの齟齬が生じた場合は姉は変更ややり直しを依頼する。 一般的には、このやり取りの時に意思の疎通を図れなくなることが往々にしてあり、悪いときには双方が感情的になって物別れになることも珍しくないものだが、この姉妹には、無縁のものらしい。 まるでテニスやバドミントンのダブルスのような揺るぎない信頼感で結ばれ、好球必打を繰り返す最強ペアのようだ。 優香さんには修正する能力と割り切りの良さがあって、デザイナーやクリエイターにありがちな我(が)を通すことで回りが見えなくなることもないようだ。 姉の頭の中のものをしっかり受け止める包容力と、それを可視化させる表現力に富んでいるのだろう。きっと。
趣味もワークスタイルにリンクしている?
最後にお二人に趣味のお話を伺ってみた。 妹の優香さんは10数年来ハワイアンダンス(フラダンス)を楽しまれているという事だ。 おなじみのウクレレやスラックキーギター(オープンチューニングギター)から爪弾かれるゆったりとしたハワイアンミュージックに合わせて踊るのだが、それぞれの曲や振りの一つ一つに意味が込められてとても興味が尽きないという事らしい。 何より群舞が楽しいという。 お仲間たちと息があった時の一体感は得も言われぬ快感だという。
一方姉の優雅さんはというと、これも10年以上「長唄」を趣味にされているという。 日頃私たちが慣れ親しんでいる、ある種記号化された西洋音楽にない難しさに惹かれるという。 6名ほどでユニゾンで生の三味線の伴奏に合わせて唄うのだが、正解のない、毎回その出来上がりにも違いが大きく出てくる「生もの」みたいなところが魅力だという。 毎年一回、発表会が盛大に行われ、過去には国立劇場を会場にしたこともあるという熱の入れようだ。
そんな話を伺うにつれ、趣味においても、ビジネススタイルに通じているなぁあと思った次第。 つまりお二人とも強烈な個性や主張をするフロントマンになるのではなく、皆と歩調を合わせてアンサンブルを楽しむ姿勢をとっている。 おそらく無意識下にそうなっているのかもしれないが、先に書いた仕事の進め方に通じるスタイルそのままではないかと思えた。
オフィスのある下北沢と言えば演劇と音楽、そして古着とカレーの街。 そんなカレー激戦区の有名店でランチをご一緒させて頂いて今回のインタビューを無事終えることが出来た。 サブカルチャーの街と言われて久しいこの下北沢。 渋谷や新宿と異なり大手資本の商業開発の触手があまり伸びてないから個性的で、流行に敏感で、アンダーグラウンド的雰囲気もあり、雑多で、何か宝捜しをしているような気分にさせてくれる街だと思う。 そんな街のエネルギーも自分たちの糧にされているんだろうなと思いつつ魅力的な人と街をあとにした。