バターケースと朝食の風景
時短ばかりがもてはやされるが・・・
これは便利!これは簡単!とばかりに今「時短」がもてはやされている。 確かに子育て中の家庭や、夫婦共働きのお家などではいかに短時間にルーティンワークをこなしていくかが重要だとは思う。だが、そればかりでは日常が殺伐とするし、暮らしの中に余白がない。
以前仕事でご一緒した著名なインテリアスタイリストが、ショップイベントのトークショーの時にこんな話をした。 「私は電子レンジを日常使いません。 というか持っていません。 冷凍したご飯も蒸し器で戻すととっても美味しいですよ〜」 料理や食材にも精通している彼女の口からいきなりレンジ不要説が飛び出して会場は少しざわついた。 話しを聞いていくと首尾一貫しているのが、たった少しの労を省く事で美味しいものや楽しい時間を逃してしまうのは「実にもったいない」という事だった。 彼女も仕事に子育てにと汲々とした時を過ごしてきたのだろう、大変だったろうにと凡人でなおかつ演歌体質の私は思ったのだが、あにはからんや彼女は全て前向きに楽しい事に転嫁している。というかまるで少女のように毎日の暮らしをワクワクしながら過ごしている様子なのだ。
木製バターケースのもたらす効果とは
前置きが少々長くなったが、今回そんな流れから取り上げるのは「バターケース」。 別に気にもかけないのであれば、プラスティック容器に入ったやつにバターナイフを突っ込んでそのままテーブルに出せば最短時間で済む。 ただしここは冒頭に書いたように暮らしの中に変則リズムを刻みたい。 きちんとしたバターケースにバターを入れて、冷蔵庫からおもむろに出し、ナイフできつね色に焼きあがったブレッドの上にじっくりと塗りながらその香りや溶けてゆく時間を楽しむ。 そんなスローな食卓にはやはり木製のバターケースがお薦めだ。
あるWEBの調査でのバターケースの評価基準は1.密閉性2.使い勝手の良さ3.手入れのし易さということで、木製のバターケースの評価は手入れに手間がかかるというマイナスポイントでかなり下位だった。 モノの価値をどこに置くかで物差しは変わってくるのでその評価をけなすつもりはないが、趣きに欠ける実利的で表層的な調査結果はあまりにさびしい。 家具の世界でも近年は、無垢材のオイル仕上げが好まれるようになってきた。 これは木の素材感が感じられ、経年変化を楽しむことが出来るからだ。 長く使用することが劣化とはならずに味になってさらに価値あるものになってゆくからだ。 手入れも決して楽ではないが、自分で出来る。 木のバターケースもバターの油分がいい具合にしみ込んで、使い込んでゆくにしたがって落ち着いた濃い色に仕上がってゆく。
ご紹介するKOIVU(フィンランド語で白樺のこと)のバターケースは、飛騨高山に拠点を置く山岳木工(代表/鈴木 岳人氏)で作られている。 フィンランドやスウエーデンで家具製作を学ばれた鈴木さんが、椅子やテーブルを製作するのと同じように長く使える生活用品を身近にある樹種でカタチにしてゆくのは、ごく自然なながれだ。
日本の食卓に合う「木」のバターケース
洋と和の食卓の違いは幾つかあるが、私は「音」の問題も大きいように思う。 洋食器やカトラリーは、無論わざと音をたてるのはマナー違反だが、どうしたってフォークやナイフは陶器類、ガラス器と触れて音がでる。金属製のポットや銀器からも使用時には何らかの乾いた音が発生する。 時にはその音も一定のリズムを奏でてそれはそれで活気があって心地よいものだ。 一方伝統的な日本の食卓は、漆器や木製の器、土ものの陶器類に木の箸だ。 それら同士が触れ合ってもあまり音は出ず、慎ましやかで静かで豊かな食卓になる。 多少こじつけの感もあるが、筆者が木製のバターケースをお薦めする理由は、こんなことにもあるのだ。
そして使い込まれた木のバターケースのある食卓は、きっと私たちのアップテンポの暮らしになかにちょっとだけ休符を置いてくれるだろう。
KOIVUのバターケース
サイズ :W160×D95×H60mm
材質:桜材/クルミオイル仕上げ
価格:¥7,600. (税込み)
※バターナイフ付き