柳 宗理(Sori Yanagi )のシェルチェア
文 : NIPPON PROUD 森口 潔
協力 : 天童木工
柳 宗理が残したもう一つの名作椅子 T-3036
柳 宗理といえばこれはもうイコールのようにして語られるのがバタフライスツールだが、彼のデザインしたプロダクトの中で私が一番好きな椅子は、実はこのシェルチェアだ。 1999年発表という事なので氏のかなり後期、84歳の時の作になる。 彼は60年代にもコトブキからFRP(ガラス繊維強化プラスチック)のシェルチェアを発表していて、これはこれで特徴的なファブリックを配して完成度は高いもののやはりイームズデザインの流れの線上にあるといってもどなたも異論はないだろうと思う。
今も「柳デザイン」の製品管理や復刻、仕様変更などの監修をされている柳工業デザイン研究所のコメントによれば、 この椅子は元々「椅子を作ろう!」という意識で始まったのではなく、紙を手遊びのようにいろいろな形にしているうちにシェルの部分の造形に至ったということらしい。 最初に「手」を動かして模索し、例えば家具ならば紙や石膏で模型を作り、いくつもいくつも作ってはそこに改良を加えてゆくという柳 宗理の物づくりの原点。 まさにその姿勢から生まれた椅子なのだ。
研究所は更に、「一体成形で背と座を作ることによってプライウッドで薄くて柔軟性もあり、かつ丈夫な椅子が出来るはずだと天童木工に試作を持ち込んで検討を重ねました。」と付け加える。 6枚の単板を少しずつずらしながら、ピッタリと最終形に収めていく天童木工の技術力があったことで完成したプロダクトだという事だ。 名作バタフライスツールの誕生の時と同じように、考える人と作る人が同じ土俵で切磋した結果なのだろう。 背中の部分のくり抜かれた穴は、三次曲面を成形した時に発生する「しわ」の逃げ道の役割りを担っているとのことで構造的にかなりの思考が重ねられた事が窺われる。だが私にはヤナギデザインのマークのカタチで穴をくり抜く「遊び心」とそれを全体的にまとめていくデザイン作業の「バランス力」に唸らさる。
そして私がナンバーワン推しする理由は
まるでバレリーナのようにスラーっと伸びた脚は華奢に見えて実は隠れたところ(座面の裏)でその頑強さを見せてくれる。 そう! 冒頭に書いた私が一番好きな椅子だという大きな理由がこれなのだ。 いかにも屈強でゴツゴツとしたものが丈夫なのは当たり前で、そこに美学はないように思う。 合気道の達人が文字通り「柳」のようにしなやかに、相手の力を使って倒して行く。あるいは古武術を修練した名人が大男を意のままに操っている姿とこの椅子が重なるのだ。 そういう日本人的な繊細なそれでいて芯の強い美しさを感じるのはきっと私だけではないだろう。
右 : サペリとシートのグリーンのクッションの組み合わせの美しさ
サペリという杢目の美しい南洋材と柳グリーンと言われる渋い緑色のシートクッションの組み合わせも時代を超越していてモダン。 懐かしくも新しいこの日本のシェルチェアの名作は我が家では時々ダイニングチェア、時々オブジェになっている。 立ち居姿が格別に美しいので使ってない時は眺めていたくなるからだ。
柳シェルチェア
●商品スペック
材質:背座 サペリ板目 / 脚部 ステンレス丸丸パイプ磨き仕上げ
サイズ : W444 D495 H714 SH428mm
重量 : 3.2kg
金額 : ¥106,700(税込み)※サペリST色・BO146ファブリックの場合